2023年10月1日からインボイス制度(適格請求書等保存方式)が導入されました。
本ページでは、消費税の免税事業者向けに、2023年10月1日以降にインボイス制度に対応するための届出等について説明します。
なお、課税事業者向けの届出等については「インボイス制度に対応するための届出から申告まで(課税事業者)」をご確認ください。
インボイス制度については2023年6月28日にfreee会計内のお知らせ欄に掲載した「インボイス制度パーフェクトガイド」で詳しく解説しています。インボイス制度について理解を深めるためにぜひご一読ください。
本ページは令和5年9月時点の制度をもとに説明しています。10月以降に制度が変更されている可能性がありますので、国税庁などの情報も併せてご確認ください。
目次
適格請求書発行事業者・課税事業者になるべきか否か
基準期間(前々事業年度)における課税売上高が1,000万円以下の事業者等※は、消費税の納税義務が免除されています(免税事業者といいます)。
免税事業者はインボイス(適格請求書)を発行できないため、インボイスを発行したい場合には、消費税の納税義務がある課税事業者になる必要があります。
※基準期間における課税売上高が1,000万円以下であっても、特定期間における課税売上高が1,000万円を超えた場合は、その課税期間から課税事業者となります。特定期間とは、個人事業者については前年1月から6月までの期間、法人については前事業年度の開始日から半年の期間のことです。詳しくは国税庁「納税義務の免除」をご覧ください。
免税事業者から適格請求書発行事業者になることで課税事業者へ転換するか否かの判断は、顧客(取引先)との関係性に依存します。
課税事業者は法人が多いことを考えると、法人との取引が多い免税事業者は取引先(課税事業者)から消費税分の値下げや取引の停止を交渉されているのではないでしょうか(ただし、免税事業者との取引でも、6年間は一定割合の仕入税額控除ができるという経過措置があります)
一方、個人(一般消費者や免税事業者)との取引がメインの免税事業者の場合、取引先の消費税の負担が増えるわけではないため、インボイス制度の影響は少ないといえます。
事業形態によってビジネスの影響は変わるので、以下を参考に対応方針についてご検討ください。
対応する顧客層 | 顧客(取引先)例 | 取引に対する影響 |
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法人(課税事業者)のみ |
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免税事業者のままでは、顧客から取引の取り止めや取引金額の値下げを交渉される事例も出ています。 ただし、自社の顧客が固定的で数も少なく、その顧客が免税事業者との取引を継続する方針を示す事例もあります。 |
法人・個人 の両方 |
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インボイス対応の必要性は顧客の傾向で変わってきます。 例えば同じ飲食業でも、接待利用の法人が多い場合、免税事業者のままでは利用を控えられることが増える可能性があります。 |
個人(一般消費者)や免税事業者のみ |
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顧客が完全に個人の場合はインボイス対応の必要性は低いです。 個人(一般消費者や免税事業者)は消費税の納税を行わないため、免税事業者のままでも取引を避けられるなどの問題は起こりにくいといえます。 |
適格請求書発行事業者になるための手続き
インボイス(適格請求書)を発行できる事業者のことを「適格請求書発行事業者」といいます。インボイス制度施行日の2023年10月1日を登録日として適格請求書発行事業者になった事業者は約390万件(2023年8月末時点の申請ベース)になっており、すでに多くの事業者が登録を済ませています。
この適格請求書発行事業者の登録申請は2023年10月1日以降も受け付けていますので、これから適格請求書発行事業者になろうという免税事業者は以下の点に留意して登録申請を行ってください。
適格請求書発行事業者の登録申請の概要
納税地を所轄する税務署長に対して「適格請求書発行事業者の登録申請書」を提出します。申請後は税務署の審査を経て適格請求書発行事業者登録簿に登録され、国税庁の「適格請求書発行事業者公表サイト」に掲載されます。
適格請求書発行事業者の登録申請はe-Tax又は書面によって行います。
登録申請から登録番号の通知まで一定時間を要します。e-Taxの方がこの時間も短くなりますのでお勧めです。
適格請求書発行事業者の登録申請を行う
適格請求書発行事業者になれるのは課税事業者だけです。通常、免税事業者が課税事業者になるためには原則として課税期間が始まる前に「消費税課税事業者選択届出書」を税務署に提出して課税事業者になる必要があります。
ただし、免税事業者が2023年10月1日から2029年9月30日までの日が含まれる課税期間に登録を受ける場合は、「消費税課税事業者選択届出書」の提出は不要です。この期間に登録を受ける場合は、「適格請求書発行事業者の登録申請書」に登録希望日(提出日から15日以降の登録を受ける日として事業者が希望する日)を記載することで、その登録希望日から適格請求書発行事業者となる経過措置が設けられています。
詳しくは、国税庁の「インボイス制度に関するQ&A 問7」をご確認ください。
消費税の計算方法を決める
免税事業者が適格請求書発行事業者になることで消費税の課税事業者となった場合、消費税申告までに消費税の計算方法を決める必要があります。
消費税の計算方法には一般課税と簡易課税(基準期間の課税売上高が5,000万円以下の事業者が選択できる消費税の計算方法)があります。
一般課税を選択する場合は届出は不要です。
簡易課税を選択する場合は、原則として課税期間が始まる前に所轄の税務署に「消費税簡易課税制度選択届出書」を提出する必要があります。ただし、免税事業者が2023年10月1日から2029年9月30日までの日が含まれる課税期間に適格請求書発行事業者の登録を受ける場合、登録日の属する課税期間中にその課税期間から簡易課税制度の適用を受ける旨を記載した「消費税簡易課税制度選択届出書」を、所轄の税務署に提出した場合には、その課税期間が始まる前に消費税簡易課税制度選択届出書を提出したものとみなされます。
また、2023年10月1日から2026年9月30日までの日が含まれる各課税期間に免税事業者が適格請求書発行事業者になることで課税事業者となった場合、売上税額の2割を納付税額とすることができる「2割特例」という計算方法が設けられています。この2割特例は、簡易課税のような届出は不要で、申告書に2割特例を適用する旨付記することで適用を受けることができます。
詳しくは、本ページの「消費税の計算方法と「2割特例」について」をご覧ください。
適格請求書発行事業者の登録申請
ここからは、適格請求書発行事業者となる手続きについて詳細に説明します。
適格請求書発行事業者の登録申請の方法は、「郵送(書面)申請」または「e-Tax(電子)申請」のいずれかで行います。
登録申請書を提出されてから登録通知までの期間は、2023年9月時点で、e-Tax提出の場合は1か月程度、書面提出の場合は約2か月かかるとされているため、早めの申請が肝要です。
「freeeインボイス登録申請ナビ」を利用することで、郵送での申請書類を簡単に作成することが可能です。詳しくは、「インボイス登録申請ナビ 使い方ガイド」をご確認ください。
郵送で登録申請を行う場合
「適格請求書発行事業者の登録申請書」に必要事項を記入した後、管轄のインボイス登録センターに送付します。
インボイス登録センターの所在地は、国税庁の「郵送による提出先のご案内」をご確認ください。
申請が完了したら登録通知書が交付されますが、登録通知書は再発行できないため、郵送で受け取る場合は紛失しないように注意しましょう。
e-Taxで登録申請を行う場合
e-Taxから申請する場合、マイナンバーカードなどの電子証明書、利用者識別番号、e-Taxソフトを事前に準備する必要があります。なお、e-Taxからの申請は質問事項に答えていくだけで適格請求書発行事業者の登録申請が完了します。
詳しくは、国税庁の「申請手続」の「e-Taxによる登録申請手続」をご確認ください。
申請後の確認について
適格請求書発行事業者公表サイトで確認する
郵送またはe-Taxで申請手続きを行った後に税務署による審査を経て、適格請求書発行事業者登録簿に登録され、その旨の公表と通知が行われます。
税務署から通知される登録番号は「T + 数字13桁」から成り、法人と個人で内容が異なります。
- 法人:T + 法人番号
- 個人:T + マイナンバーは用いず、法人番号とも重複しない13桁の数字
インボイスへ記載する際は、全角‧半角は問わず「T1234567890123」のような形で記載します。
適格請求書発行事業者登録簿に登録された後に、国税庁の「適格請求書発行事業者公表サイト」に掲載されますので、こちらのサイトで通知された番号を入力することで登録の有無を確認できます。
登録申請手続きチェックリスト
適格請求書発行事業者の登録申請は、申請しただけで終わりではありません。登録申請後に、以下の内容が網羅できているか確認しましょう。
- 適格請求書発行事業者の登録申請手続きは行いましたか
- 登録通知を確認しましたか
- 適格請求書発行事業者公表サイトに自社の情報が公開されているか確認しましたか
課税期間の途中から課税事業者となる場合の注意点
免税事業者が適格請求書発行事業者になることで課税事業者になる場合、消費税の計算期間である課税期間(個人:1月1日~12月31日、法人:事業年度)の途中に免税事業者から課税事業者に変わることになることがあります。例えば、個人事業者が2023年10月1日から適格請求書発行事業者になる場合、2023年1月1日~2023年9月30日の期間は免税事業者、2023年10月1日~2023年12月31日は課税事業者ということになります。
このようなケースでは、消費税の申告は課税事業者である2023年10月1日~2023年12月31日の期間の課税取引を集計して行うことになります。具体的には消費税申告書作成時に申告対象期間として課税事業者になった日から期末までの期間を設定することで、正しく集計されるようになります。
このように課税期間中に免税事業者から課税事業者に変わる場合、会計上の決算書などはどのように作成すれば良いのでしょうか?
消費税の経理処理の方式として税込経理と税抜経理とがあります。
税込で11,000円の課税売上(税率10%)の場合、
- 税込経理:11,000円で売上高を計上
- 税抜経理:10,000円は売上高で、1,000円は仮受消費税等で計上
することになります。
この消費税の経理処理方式は一課税期間の途中で変えることはできません。
免税事業者は税込経理で経理処理することとされています。課税期間の途中で課税事業者に変わる場合、課税事業者の期間も免税事業者の期間の税込処理をそのまま引き継ぎ、税込処理で決算書を作成すれば、特別な処理をすることなく決算まで済ませることができます。詳しくは、「申告一覧の機能について」をご確認ください。
消費税の計算方法と2割特例について
消費税の計算方法には一般課税と簡易課税があります。
一般課税を選択する場合は届出は不要です。一方、簡易課税を選択する場合は届出が必要です。
免税事業者が適格請求書発行事業者になることで消費税の課税事業者となった場合売上税額の2割を納付税額とすることができます。これを2割特例といいます。2割特例を適用できる期間は、2023年10月1日〜2026年9月30日を含む課税期間となります。
この2割特例を選択する場合は届出は不要です。選択している消費税の計算方法が一般課税なら一般課税の申告書に、簡易課税ならば簡易課税の申告書に2割特例を適用する旨付記することで適用することができます。
詳しくは、国税庁「2割特例(インボイス発行事業者となる小規模事業者に対する負担軽減措置)の概要」をご確認ください。
また、実際の申告時の対応については「2割特例への対応」をご確認ください。
2割特例を適用するメリット・デメリット
2割特例のメリット
2割特例を適用することで、簡易課税と同じように支払った消費税の集計は必要なく、売上や収入を税率ごと(軽減8%‧10%)に把握するだけで、消費税の申告書が作成できるようになります。
また、事前の届出も不要であり、申告時に2割特例を適用するか否かを選択することができます。
2割特例のデメリット
2割特例を適用した場合は、支払った消費税の方が売上に係る消費税より多い場合でも消費税の還付が受けられません。適用するべきか否かは専門家と相談したうえで決定することをおすすめします。これは簡易課税を選択した場合も同様です。
2割特例の留意点
2割特例は期間限定の特例のため、期間終了後の消費税の計算方法を一般課税または簡易課税のいずれかに決めなければなりません。また、2割特例を適用可能な期間でも、基準期間の課税売上が1,000万円を超えるとその課税期間では2割特例を適用できなくなります。
2割特例が適用できる期間は2割特例の適用を受け、適用できなくなったら簡易課税を選択すると決めている場合は、どの時期に「消費税簡易課税制度選択届出書」を提出しなければならないかもあらかじめ確認しておきましょう。
消費税納税額シミュレーション
2割特例を適用するべきか否かの検討の参考として、「消費税納税額シミュレーション」で簡単にシミュレーションができます。
シミュレーション方法は、上記のページにアクセスし、「消費税納税シミュレーター」の①から④までの項目を入力して[計算する]をクリックするだけです。
免税事業者から変更しない場合
対応する顧客層が個人(免税事業者や消費者)のみである場合など、免税事業者のままでも影響がない事業者は、特別な手続きは必要ありません。今まで通り免税事業者のまま事業活動を継続しましょう。
ただし、当面は免税事業者のままだとしても、今後事業の拡張や事業内容の変更により課税事業者を対象とした取引が発生するような場合は、再度本ページを確認してください。