2023年10月1日からインボイス制度(適格請求書保存方式)が導入されました。
本ページでは、インボイス制度における各種特例について説明します。
インボイス制度については2023年6月28日にfreee会計内のお知らせ欄に掲載した「インボイス制度パーフェクトガイド」で詳しく解説しています。インボイス制度について理解を深めるためにぜひご一読ください。
※本ページは令和5年9月時点の制度をもとに説明しています。10月以降は制度が変更されている可能性がありますので、国税庁などの情報も併せてご確認ください。
目次
インボイス制度における特例制度
2023年10月1日からインボイス制度が導入されますが、免税事業者をはじめとする多くの事業者に影響を及ぼすことを考慮して、影響を緩和するための負担軽減措置(特例)が設けられています。
具体的には、次の特例が設けられています。
それぞれの特例について、以下で説明します。
課税事業者となった場合の消費税額の「2割特例」について
2割特例とは
免税事業者が新たに課税事業者となった場合、消費税の納税額を課税売上の2割に軽減する経過措置を受けることができます。これを2割特例といいます。
なお、2割特例を適用できる期間は、2023年10月1日〜2026年9月30日を含む課税期間となります。
詳しくは、国税庁「2割特例(インボイス発行事業者となる小規模事業者に対する負担軽減措置)の概要」をご確認ください。
2割特例を適用するメリット・デメリット
2割特例を適用することで、簡易課税と同じようにインボイスの保存や支払った消費税の集計は必要なく、売上や収入を税率ごと(軽減8%‧10%)に把握するだけで、消費税の申告書が作成できるようになります。
また、事前の届出も不要であり、申告時に2割特例を適用するか否かを選択することで適用が可能です。
ただし、2割特例を適用した場合は消費税の還付が受けられませんので、適用するべきか否かは専門家と相談したうえで決定することをおすすめします。
また、2割特例を適用するべきか否かの検討の参考として、「消費税納税額シミュレーション」で簡単にシミュレーションができます。
シミュレーション方法は、上記のページにアクセスし、「消費税納税シミュレーター」の①から④までの項目を入力して[計算する]をクリックするだけです。
2割特例を適用した場合の消費税納付額の計算
消費税の納税額の計算方法としては、一般課税(原則課税ともいいます)・簡易課税の2つがあり、2割特例は、これらの計算方法に新たに加わった第3の計算方法です。
2割特例の適用を受けた場合は、売上時に預かった消費税額の2割を納税額とすることができます。
2割特例の適用を受けるための条件
2割特例の適用を受けるためには、以下の条件を満たす必要があります。
- 免税事業者が適格請求書発行事業者の登録を受けた(対象期間:2023年10月1日〜2026年9月30日を含む課税期間)
- 基準期間(前々事業年度)の課税売上高が1,000万円以下である
- 新設法人については、資本金1,000万円未満である
なお、2割特例の適用を受ける場合は事前の手続き等は必要が無く、消費税の確定申告書に2割特例の適⽤を受ける旨を付記することで適⽤を受けることができます。
また、課税売上高については本ページの「参考:課税売上高とは」をご参照ください。
少額特例について
少額特例とは
少額(税込1万円未満)の課税仕入れや消耗品などを購入した際に、要件を満たしている事業者であれば、インボイスの保存がなくても一定の事項を記載した帳簿の保存のみで仕入税額控除ができます。
なお、一定の事項とは以下の4項目を指します。
- 課税仕入れの相手方の氏名又は名称
- 取引年月日
- 取引内容(軽減税率対象の場合、その旨)
- 課税仕入れに係る支払対価の額
少額特例の適用対象者
以下のどちらかを満たす事業者が少額特例の対象者となります。
- 基準期間(※1)における課税売上⾼が1億円以下
- 特定期間(※2)における課税売上⾼が5千万円以下の事業者
※1:基準期間とは、個人事業者の場合はその年の前々年、事業年度が1年である法人の場合はその事業年度の前々事業年度を指します。
※2:特定期間とは、個⼈事業者については前年1〜6⽉までの期間を指し、法⼈に
ついては前事業年度の開始の⽇以後6⽉の期間を指します。
なお、課税売上高については本ページの「参考:課税売上高とは」をご参照ください。
少額特例の適用期間
少額特例は、2023(令和5)年10⽉1⽇から2029(令和11)年9⽉30⽇までの期間が適⽤対象期間となり、この期間中に⾏う課税仕⼊れが少額特例の適⽤対象となります。
また、課税期間の途中であっても、2029(令和11)年10⽉1⽇以後に⾏う課税仕⼊れについては、少額特例の適⽤はありません。
税込1万円未満の考え方について
少額特例は税込1万円未満の課税仕入れが適用条件となりますが、1万円未満の商品などを複数仕入れ、合計が1万円以上になった場合は適用対象外となります。
例えば、6,000 円の商品と 9,000 円の商品を同時に購⼊(合計 15,000 円)した場合、少額特例の対象になりませんので注意が必要です。
詳しくは、国税庁「少額特例(一定規模以下の事業者に対する事務負担の軽減措置の概要)の概要」の「税込1万円未満の判定単位」をご確認ください。
帳簿のみ保存の特例について
インボイス制度導入後では、消費税の仕入税額控除を受けるためには帳簿及び請求書等の保存が必要とされます。
ただし、請求書等の交付を受けることが困難であるなどの理由により、以下の取引については、一定の事項を記載した帳簿のみの保存で消費税の仕入税額控除が認められます。詳しくは、国税庁「3 帳簿のみの保存で仕入税額控除が認められる場合」の問104をご確認ください。
- 適格請求書の交付義務が免除される3万円未満の公共交通機関による旅客の運送
- 適格簡易請求書の記載事項(取引年月日を除きます。)が記載されている入場券等が使用の際に回収される取引(①に該当するものを除きます。)
- 古物営業を営む者の適格請求書発行事業者でない者からの古物(古物営業を営む者の棚卸資産に該当するものに限ります。)の購入
- 質屋を営む者の適格請求書発行事業者でない者からの質物(質屋を営む者の棚卸資産に該当するものに限ります。)の取得
- 宅地建物取引業を営む者の適格請求書発行事業者でない者からの建物(宅地建物取引業を営む者の棚卸資産に該当するものに限ります。)の購入
- 適格請求書発行事業者でない者からの再生資源及び再生部品(購入者の棚卸資産に該当するものに限ります。)の購入
- 適格請求書の交付義務が免除される3万円未満の自動販売機及び自動サービス機からの商品の購入等
- 適格請求書の交付義務が免除される郵便切手類のみを対価とする郵便・貨物サービス(郵便ポストに差し出されたものに限ります。)
- 従業員等に支給する通常必要と認められる出張旅費等(出張旅費、宿泊費、日当及び通勤手当)
なお、上記のどれに該当するか分からない場合は、税務署や税理士に相談のうえご判断ください。
帳簿のみ保存の特例を適用するための条件
帳簿のみ保存の特例を適用するためには一定の事項を記載した帳簿の保存が必要となりますが、「一定の事項」とは以下の項目を指します。
- 課税仕入れの相手方の氏名又は名称
- 取引年月日
- 取引内容(軽減税率対象の場合、その旨)
- 対価の額
- 課税仕入れの相手方の住所又は所在地(※1)
- 特例の対象となる旨(※2)
※1:以下に該当する事業者からの課税仕入れについては「課税仕入れの相手方の住所又は所在地」は不要となります。
- 適格請求書の交付義務が免除される3万円未満の公共交通機関(船舶、バス又は鉄道)による旅客の運送について、その運送を行った者
- 適格請求書の交付義務が免除される郵便役務の提供について、その郵便役務の提供を行った者
- 課税仕入れに該当する出張旅費等(出張旅費、宿泊費、日当及び通勤手当)を支払った場合の当該出張旅費等を受領した使用人等
- 上記③から⑥の課税仕入れ(③から⑤に係る課税仕入れについては、古物営業法、質屋営業法又は宅地建物取引業法により、業務に関する帳簿等へ相手方の氏名及び住所を記載することとされているもの以外のものに限り、⑥に係る課税仕入れについては、事業者以外の者から受けるものに限ります。)を行った場合の当該課税仕入れの相手方
※2:「帳簿のみ保存の特例について」の9つの条件のうち、どの条件に該当するかが分かるように記載する必要があります。
例:
①に該当する場合、「3万円未満の鉄道料金」
②に該当する場合、「入場券等」
freee会計の取引登録例
「帳簿のみ保存の特例を適用するための条件」で記述した「一定の事項を記載した帳簿」をfreee会計で登録する場合、以下のように登録します。
なお、取引の登録に関する詳しい手順は「手動で取引を登録する」をご確認ください。
例:2023年10月10日に東京から大阪まで新幹線で移動した。
項目名 | 入力例 |
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収支 | 支出 |
決済 | 完了 |
口座 | 現金 |
発生日 | 2023-10-10 |
取引先 | JR東日本 |
適格請求書等 ※「買い手側対応機能]を「使用する」に設定している場合のみ表示されます。 |
「該当する」にチェック ※適格請求書発行事業者に該当しない場合はチェックを外します。 |
勘定科目 | 旅費交通費 |
金額 | 15,000 |
品目・部門・メモタグ・セグメント ※セグメントは法人アドバンスプラン(または旧プロフェッショナルプラン)以上でのみ設定できます。 |
品目:新幹線代 |
備考 | 3万円未満の鉄道料金 |
税区分選択や書類保存の判断フローチャート
ご自身が消費税の課税事業者であるか否か、取引先が適格請求書発行事業者であるか否か、適格請求書の保存が必要か否かなど、様々な条件によって税区分の使い分けやレシート等の書類の保存の要不要が変化します。
そのため、以下のフローチャートを用いることで、税区分の選択や書類の保存の要不要について判断する参考にすることが可能です。
なお、以下のフローチャート中の「インボイスでなくても問題ありません。」については、「法人税法、所得税法に対応するために保存するため、インボイスでなくても問題ない」という意味になります。
①消費税の課税事業者ですか? (判定方法はこちら) | |||
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↓ はい | ↓ いいえ | ||
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②消費税の対象となる仕入や購入ですか?(判定方法はこちら) | |||
↓ はい | ↓ いいえ | ||
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③発生日はインボイス制度(2023年10月)以降ですか? | |||
↓ はい | ↓ いいえ | ||
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④少額特例が適用可能な事業所ですか?(判定方法はこちら) | |||
↓ はい | ↓ いいえ | ||
⑤購入金額の合計が税込1万円以上ですか? |
⑥適格請求書発行事業者以外から購入した場合に 仕入控除が認められる取引内容ですか? (判定方法はこちら) |
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↓ はい | ↓ いいえ | ↓ はい | ↓ いいえ |
⑥へ進みます |
少額特例の適用が可能です。
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帳簿のみの保存で仕入税額控除が認められる場合の特例が適用可能です。
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⑦取引先は適格請求書発行事業者ですか? | |||
↓ はい | ↓ いいえ | ||
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⑧適格請求書の保存が不要な取引に該当しますか?(判定方法はこちら) | |||
↓ はい | ↓ いいえ | ||
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⑨受け取った書類はインボイスの要件を満たしていますか?(判定方法はこちら) | |||
↓ はい | ↓ いいえ | ||
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⑩取引先に再発行を依頼してインボイスを受け取りますか? | |||
↓ はい | ↓ いいえ | ||
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参考:課税売上高とは
課税売上高とは、「消費税が課税される売上」と、輸出取引などの「免税売上」を合計した金額をいいます。
返品、値引き、割戻し等があった場合には、その金額を差し引いて計算します。
課税事業者の場合は、消費税および地方消費税を含めない税抜金額を課税売上高とします。
免税事業者の場合は、売上に消費税相当額が含まれていないとみなされるため、税抜処理を行わず税込金額をそのまま課税売上高とします。
過去の事業年度の課税売上高を確認する際には、現在ではなくその期間において課税事業者であったか免税事業者であったかにより判断します。
なお、消費税および地方消費税は、次の要件をすべて満たす取引に課税されます。
- 日本国内において行う取引であること
- 事業者が事業として行う取引であること
- 対価を得て行う取引であること
- 資産の譲渡、資産の貸付け、または役務(サービス)の提供であること
たとえば補助金や助成金の収入など、これらの要件を満たさない取引は課税の「対象外」となるため、課税売上高には含まれません。
また、要件を満たす取引であっても社会政策的配慮により課税しないこととされる「非課税」の取引もあり、同じく課税売上高には含まれません。
非課税の取引には、土地の売却や医療・介護保険サービスの収益などが該当します。
売上やその他の収入が課税売上高に含まれるかどうかご不明な場合には、税務署や税理士にご確認ください。